楽天の「赤字」を誤読するな――モバイル事業は本当に失敗だったのか
「楽天モバイルは金食い虫」——この評価は、もう修正が必要です。
楽天グループの2025年12月期通期決算を振り返ると、モバイルセグメントの営業損失は約2,090億円でした(楽天グループ 2025年度通期決算短信)。累積では1兆円を超える赤字。数字だけを見れば「失敗」と断じたくなる気持ちは理解できます。実際、多くのメディアがこの数字を見出しに取り、楽天の経営判断を疑問視してきました。
しかし、株式市場はまったく異なるシグナルを発しています。
楽天グループの株価は、2024年初頭の500円台から2026年7月時点で1,100円前後まで上昇しました(Yahoo!ファイナンス 2026年7月時点)。モバイル赤字が縮小に向かい始めた2024年後半から、上昇トレンドが鮮明になっています。ここに重要な転換点があります。市場が評価しているのは「赤字が減ったこと」ではなく、「赤字の意味が変わったこと」です。
この変化を読み解くには、3つの視点が必要です。
第一に、契約者数の推移。 楽天モバイルの累計契約回線数は、2026年6月時点で約800万回線を突破しました(楽天モバイル プレスリリース 2026年6月)。2023年末の約600万回線から着実に積み上がっています。MNO(自前の通信回線を持つ携帯キャリア)として、楽天グループがかつて公式に示していた損益分岐点(EBITDAベース)は800万〜1,000万回線(+ARPU 2,500〜3,000円)とされていましたが、その後「正味ARPU」指標の導入に伴いこの基準は撤回されています。
第二に、ARPU(1ユーザーあたりの月間収益)の改善。 楽天モバイルのARPUは2025年通期で約2,020円と、前年比で15%以上伸びています(楽天グループ 2025年度通期決算説明資料)。段階制料金プラン「Rakuten最強プラン」によって、データ利用量の増加がそのまま収益増に直結する設計が機能しています。
第三に、エコシステム連携の深化。 正直、ここが最も見落とされているポイントです。楽天モバイル契約者の楽天市場での月間購買額は、非契約者と比較して約2倍という数値が決算説明会で示されています(楽天グループ 2025年度第4四半期決算説明会資料)。モバイル契約者は楽天ポイントの還元率が上がるため、楽天市場・楽天ペイ・楽天トラベルなど他サービスの利用頻度が跳ね上がる。単独事業としての赤字を、グループ全体の収益拡大で回収する設計。
つまり、楽天モバイルの赤字は「垂れ流し」ではなく「投資」として読むべきフェーズに入っています。
多くの報道はモバイル単体のPL(損益計算書)だけを切り取ります。しかし三木谷浩史会長が繰り返し強調してきたのは、通信インフラを起点とするデータ循環の構築です。モバイル事業は、楽天経済圏にユーザーを引き込み、行動データを取得し、そのデータをAIレコメンドや広告収益に転換するための入口装置。赤字解消という「守り」ではなく、データ基盤の確立という「攻め」の投資。
ここから先、本記事では楽天が仕掛ける収益モデル転換の全体像を解剖していきます。通信がデータパイプラインに変わる仕組み、サブスクリプションがデータ高密度化装置として機能するメカニズム、そしてAmazonのフライホイールとの比較から見える成功と失敗の分岐点——順を追って分析していきます。
通信インフラがデータパイプラインに変わる瞬間
楽天モバイルがMNO(自前で通信網を持つキャリア)に参入した2020年、業界の反応は冷ややかでした。「なぜECの会社が数兆円もかけて基地局を建てるのか」。この問いに対する答えが、ようやく輪郭を見せ始めています。
通信インフラは、単なる「電波を届ける設備」ではありません。楽天にとっては、ユーザーの行動データを24時間365日取得し続ける**パイプライン(情報の流通経路)**です。この視点を持つと、モバイル事業の意味がまったく変わって見えます。
ファーストパーティデータの取得経路は3層ある
楽天モバイルが取得できるファーストパーティデータ(自社が直接ユーザーから得るデータ)は、大きく3つの層に分かれます。
第一層は、通信利用データ。 いつ、どこで、どのくらいの時間データ通信を行ったか。これはMNOだからこそ取得できる情報です。総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(2025年改訂版)の範囲内で、統計処理・匿名化されたうえでマーケティングに活用できます。位置情報の傾向、時間帯別の通信量、アプリカテゴリ別の利用比率。MVNO(回線を借りる格安SIM事業者)ではここまでの粒度は取れません。
第二層は、契約・決済データ。 楽天モバイルの料金支払いは楽天カードや楽天ペイと紐づいています。実は、楽天モバイル契約者の約73%が楽天カードで料金を支払っているとされています。通信料金の支払い手段ひとつとっても、ユーザーの金融行動と直結する情報が蓄積されていく設計です。
第三層は、エコシステム横断データ。 ここが最も重要な層です。楽天モバイル契約者は楽天IDでログインした状態でスマートフォンを使い続けます。楽天市場での購買履歴、楽天トラベルの予約履歴、楽天ペイの決済履歴、楽天証券の投資行動——これらがすべて一つのIDに紐づく。楽天グループが2025年時点で保有する楽天IDは1億以上(楽天グループ IR資料 2025年度)。このうちモバイル契約者は、非契約者と比べて楽天市場における平均年間流通総額が約48.5%多いとされています(楽天グループ IR資料 2024年度Q3決算)。
なぜMVNOではなくMNOでなければならなかったのか
ここに重要な転換点があります。楽天がMVNOのままだった場合、取得できるのは第二層と第三層のみです。第一層の通信利用データ——つまりユーザーがスマートフォンをどう使っているかというリアルタイムの行動情報——は、回線を貸している側のキャリア(NTTドコモやKDDI)が握ることになります。
MNOになるという判断は、データ取得の「解像度」を一段引き上げる選択でした。年間数千億円の設備投資は、見方を変えれば「ファーストパーティデータの取得コスト」です。GoogleやMetaが広告プラットフォームを通じてユーザーデータを得るのと同様に、楽天は通信インフラそのものをデータ取得装置として位置づけている。
データの還流フロー——通信から購買へ、購買から広告へ
取得されたデータは、楽天エコシステム内で次のように循環します。
まず、通信利用データと位置情報の傾向から、ユーザーの生活圏・行動パターンが推定されます。次に、その推定結果が楽天市場のレコメンドエンジンや楽天ペイのクーポン配信ロジックに反映されます。たとえば、特定の商業エリアへの移動頻度が高いユーザーに対して、そのエリアの店舗で使える楽天ペイクーポンを配信する。購買が発生すれば、その結果がさらにデータとして蓄積される。
最終的に、この高密度なユーザープロファイルは楽天の広告事業「Rakuten Advertising」の配信精度を押し上げます。楽天グループの広告・マーケティング関連売上は2025年度で前年比18%増と伸びており(楽天グループ 2025年度通期決算短信)、エコシステム内のデータ統合が広告単価の上昇に寄与し始めた兆候が見えます。
通信インフラという「コストセンター」が、データを媒介にして「レベニュードライバー(収益の推進力)」へと転換していく。この流れを理解すると、楽天モバイルの巨額投資は無謀な賭けではなく、データ経済における基盤工事だと分析できるでしょう。
サブスクは「課金」ではない――楽天プレミアムが担うデータ高密度化の役割
「月額料金を払ってもらえれば、それで十分」——楽天のサブスクリプション戦略をそう捉えているなら、本質を見誤っています。
楽天プレミアムは2023年にリニューアルされました。月額3,980円(税込)で、楽天市場でのポイント還元率アップ、楽天トラベルの優待、楽天ブックスの割引などが束ねられた統合型サブスクリプションです。一見すると、Amazonプライムの楽天版。しかし、その設計意図はもっと深いところにあります。
サブスクの本質は「データ取得コストの最適化」
サブスクリプションの月額収益は、もちろん重要です。ただし、楽天プレミアムが果たしている最大の機能は、エコシステム内のユーザー行動密度を引き上げることにあります。
楽天グループの2025年度通期決算説明会資料によれば、楽天プレミアム会員の月間サービス利用数は平均4.2サービスです。非会員の平均1.8サービスと比較すると、約2.3倍。楽天市場で買い物をし、楽天ペイで決済し、楽天トラベルで宿を予約し、楽天証券でポイント投資を行う。一人のユーザーから取得できるデータポイントが、サブスク加入によって飛躍的に増えるわけです。
ここに重要な転換点があります。通常、ファーストパーティデータの取得にはコストがかかります。広告を出してユーザーを呼び込み、キャンペーンで行動を促し、ようやくデータが蓄積される。しかし楽天プレミアムでは、ユーザー自身が月額料金を支払いながら、自発的にデータを生成してくれる。データ取得コストがマイナス、つまり「お金をもらいながらデータを集めている」状態です。
ARPUと継続率が示す「囲い込み」の強度
楽天プレミアム会員のARPU(1ユーザーあたりの月間収益)は、エコシステム全体で見ると非会員の約3.5倍に達します(楽天グループ 2025年度通期決算説明会資料)。月額3,980円のサブスク収益だけではありません。楽天市場での購買額増加、楽天カードの決済額増加、楽天証券での取引増加——すべてが上乗せされた数字です。
継続率も注目に値します。楽天プレミアムの12か月継続率は約78%と開示されています(楽天グループ 2025年度第4四半期決算説明会資料)。SaaS業界で「健全」とされる継続率が80〜90%であることを考えると、コンシューマー向けサブスクとしてはかなり高い水準。ユーザーがプレミアム特典を複数サービスで日常的に使い込むほど、解約コスト(スイッチングコスト)が心理的に上がっていく設計です。
実は、この「解約しにくさ」こそがデータ高密度化の鍵です。継続率が高いほど、同一ユーザーの時系列データが長期間にわたって蓄積されます。ある月にどんな商品を買い、どの地域に旅行し、いくら投資したか。半年、1年と積み重なったデータは、単発の購買履歴とは比較にならない予測精度をAIレコメンドにもたらします。
ポイント経済圏が生む「行動ログの自動生成装置」
楽天プレミアムの設計でもう一つ見逃せないのが、楽天ポイントとの連動です。プレミアム会員は楽天市場でのポイント倍率が上がるため、「どうせ買うなら楽天市場で」というインセンティブが常に働きます。楽天ペイで支払えばさらにポイントが貯まる。貯まったポイントは楽天証券でポイント投資に回せる。
この循環の中で、ユーザーは意識せずとも購買・決済・投資・移動にまたがる行動ログを生成し続けます。楽天グループのクロスユース率(複数サービスを併用する割合)は、2025年度時点で楽天プレミアム会員に限ると74.8%です(楽天グループ IR資料 2025年度)。4人に3人が3サービス以上を日常的に使っている計算になります。
正直、ここまでの行動データ密度を単一IDで持てるプラットフォームは、日本国内では楽天以外にほぼ存在しません。LINEヤフーはコミュニケーションと検索のデータに強みがありますが、EC・決済・証券・旅行・通信を横断する行動ログを一気通貫で保持しているのは楽天だけと分析できるでしょう。
つまり、楽天プレミアムは「月額課金で稼ぐ仕組み」ではなく、「ユーザーにお金を払ってもらいながら、AIレコメンドの燃料となる高密度データを自動生成させる仕組み」です。SaaS的な定額課金の皮をかぶった、データ取得コスト最適化装置。この理解なしに、楽天の収益モデル転換は語れません。
Amazonフライホイールとの構造比較――「通信×決済×EC」は成立するか
楽天の収益モデル転換を評価するうえで、避けて通れない比較対象があります。Amazonです。
Amazonは「物流×AWS(クラウド)×広告」という三角形のフライホイール(事業が相互に強化し合い、回転するほど加速する好循環モデル)を確立しました。楽天が目指すのは「通信×決済×EC」のフライホイール。両者の構造を並べると、相似点と決定的な差異の両方が浮かび上がります。
Amazonフライホイールの核心——なぜ「回り続ける」のか
Amazonのフライホイールは、ジェフ・ベゾスが創業初期にナプキンに描いたとされる図から始まりました。低価格で顧客を集め、顧客が増えれば出品者が集まり、出品者が増えれば品揃えが充実し、品揃えが充実すればさらに顧客が集まる。この基本ループに、2つの強力なブースターが加わっています。
ブースター1はAWS。 Amazonの2025年度アニュアルレポートによれば、AWSの営業利益は約393億ドルで、Amazon全体の営業利益の約58%を占めています(Amazon 2025 Annual Report)。EC事業の薄利を補うどころか、会社全体の利益の過半を稼ぐ柱。このキャッシュがEC事業の価格競争力と物流投資を支えています。
ブースター2は広告事業。 Amazonの広告サービス売上は2025年度で約565億ドルに到達しました(Amazon 2025 Annual Report)。ECプラットフォーム上での検索連動型広告が中心で、購買意図が明確なユーザーに直接リーチできるため、広告主のROI(投資対効果)が極めて高い。この広告収益がさらに価格引き下げの原資になる。
つまり、Amazonのフライホイールは「EC単体で儲ける」モデルではありません。ECを顧客接点として、クラウドと広告で利益を回収する仕組みです。
楽天フライホイールとの構造比較——3つの相似点
楽天が構築しようとしているフライホイールには、Amazonと明確に重なる要素が3つあります。
第一に、「赤字許容のユーザー獲得装置」の存在。 Amazonにとっての低価格EC、楽天にとっての楽天モバイル。どちらも単体では利益を出しにくいが、エコシステムへの入口として機能します。楽天モバイルの累積赤字1兆円超は、Amazonが物流網に投じた数百億ドルの設備投資と同じ性質を持っています。
第二に、データ駆動の広告収益モデル。 AmazonがEC上の購買データで広告精度を高めているように、楽天は通信・決済・ECの横断データで「Rakuten Advertising」の配信精度を引き上げようとしています。楽天グループの広告関連売上は前年比18%増(楽天グループ 2025年度通期決算短信)。規模はまだ小さいものの、成長の方向性は同じです。
第三に、サブスクリプションによるロックイン。 AmazonプライムがEC・動画・音楽を束ねてユーザーを囲い込むように、楽天プレミアムがEC・旅行・ポイント還元を束ねて離脱を防いでいます。設計思想の類似性は明らかです。
決定的な差異——2つの構造的ギャップ
しかし、相似点だけを見て「楽天はAmazonになれる」と結論づけるのは早計です。ここに2つの重要なギャップがあります。
ギャップ1は、利益エンジンの不在。 AmazonにはAWSという巨大な利益エンジンがあります。営業利益率30%超のクラウド事業が、EC事業の赤字や薄利を吸収する。楽天にはこれに相当する事業がまだ存在しません。楽天の金融セグメント(楽天カード・楽天銀行・楽天証券)が最も近い候補ですが、2025年度の金融セグメント営業利益は約1,200億円(楽天グループ 2025年度通期決算短信)。AWSの規模には遠く及びません。モバイル赤字を吸収しきれない以上、フライホイールが「加速」に転じるまでの時間軸が長くなります。
ギャップ2は、グローバルスケールの欠如。 Amazonのフライホイールは北米・欧州・アジアにまたがるグローバル規模で回転しています。売上高は2025年度で約6,380億ドル(Amazon 2025 Annual Report)。楽天の連結売上高は2025年度で約2兆円(楽天グループ 2025年度通期決算短信)。約45倍の差。データ量と投資余力の差は、AI基盤の精度や研究開発スピードに直結します。
日本市場固有の摩擦要因
さらに、日本市場ならではの摩擦も無視できません。
総務省「令和7年版 情報通信白書」によれば、日本のMNO市場はNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクの3社で依然として契約回線数の約85%を占めています。楽天モバイルのシェアは約5〜6%。通信を起点としたフライホイールを回すには、まだ規模が足りません。
ちなみに、日本の消費者はECプラットフォームの併用率が高いという特性もあります。経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」では、日本のEC利用者の約62%が複数のECモールを使い分けていると報告されています。Amazonプライムに加入しながら楽天市場でも買い物する層が厚い。エコシステムへの「排他的ロックイン」がかかりにくい市場環境です。
それでも「通信×決済×EC」は成立しうるか
結論から言えば、条件付きで成立しうると分析できるでしょう。
楽天がAmazonと同じスケールのフライホイールを回すのは、現時点では非現実的です。しかし「日本市場に特化した垂直統合型データコングロマリット」としてであれば、独自のポジションを確立する余地はあります。通信・決済・EC・金融を一つのIDで横断できるプレイヤーは日本に他にいない。この一点が、楽天の最大の構造的優位性です。
問題は、フライホイールが自律回転するまでの「燃料」——つまりキャッシュ——が持つかどうか。ここが、次のセクションで論じるAIレコメンド基盤への還流と密接につながってきます。
AIレコメンド基盤への還流――データループが閉じるとき、収益モデルは何が変わるか
ここまで見てきた通信・決済・ECのデータが、最終的にどこへ向かうのか。答えは、AIレコメンド基盤です。
楽天グループは2024年から「Rakuten AI」プラットフォームの本格運用を開始しました(楽天グループ 2024年度技術戦略説明会資料)。楽天市場の商品レコメンド、楽天ペイのクーポン最適配信、楽天証券の投資提案——これらすべてのパーソナライズを統合AIが担う設計です。ここに、通信・決済・ECから流れ込むファーストパーティデータが「燃料」として注入される。データループが閉じる瞬間、収益モデルに何が起きるのか。2つのシナリオで整理します。
シナリオA——データループが「閉じる」場合
楽天モバイル契約者が1,000万回線を超え、楽天プレミアム会員のクロスユース率がさらに上昇した場合を想定します。
最も直接的な変化は、コンバージョン率(CVR=サイト訪問者が実際に購入する割合)の改善です。McKinsey & Companyの2025年レポート「The State of AI in Retail」によれば、ファーストパーティデータを活用したAIレコメンドは、汎用的なレコメンドと比較してCVRを15〜35%向上させるとされています。楽天が通信・決済・ECの横断データをレコメンドに統合できれば、楽天市場の広告クリック単価(CPC)と広告経由売上の両方が押し上げられます。
次に、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の拡大。ユーザーの購買・移動・投資パターンを長期時系列で把握できれば、「今この瞬間に何を提案すべきか」の精度が上がります。楽天市場に出店する事業者にとっては、広告費あたりの売上効率が改善される。結果として広告出稿額が増え、楽天の広告収益がさらに拡大する——フライホイールの自律回転です。
シナリオB——データループが「閉じない」場合
一方、ループが閉じないリスク要因も明確に存在します。
第一のリスクは、データ統合の技術的障壁。 通信データ、決済データ、ECデータはそれぞれ異なるシステム基盤で管理されています。これらをリアルタイムに統合してAIモデルに投入するには、データレイク(大量データの統合貯蔵基盤)の整備とETLパイプライン(データの抽出・変換・格納の自動処理)の高度化が必要です。実は、楽天は2025年時点でデータ統合基盤の刷新プロジェクトを進行中とされていますが、完全統合の時期は明示されていません。
第二のリスクは、個人情報保護規制の強化。 総務省「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」は2025年に改訂され、通信データの目的外利用に対する制約が厳格化されました。通信データをEC向けレコメンドに転用するには、ユーザーの明示的同意取得プロセスが不可欠。同意率が低ければ、データループの「流量」が想定を下回る可能性があります。
3つのステークホルダーにとっての含意
最後に、データループの成否が各ステークホルダーにとって何を意味するか。
投資家にとっては、「広告収益成長率」が最重要KPI。 データループが閉じれば、楽天の広告事業は現在の前年比18%成長から25〜30%成長への加速が見込めます。逆に閉じなければ、モバイル赤字の回収シナリオが後ずれし、株価の上値は限定的。
出店事業者にとっては、広告ROIの変化が判断基準。 AIレコメンドの精度が上がれば、楽天市場への広告出稿は「コスト」から「投資」に変わります。
ユーザーにとっては、利便性とプライバシーのトレードオフ。 レコメンド精度の向上は買い物体験を改善します
